
(撮影1980年)
私の最初の勤務地だった高安山気象レーダー観測所(大阪レーダー)について、1980年代当時の観測機器や運用の様子を思い出とともに紹介します。
気象レーダーが天気予報の基礎となる重要な観測装置であることや、当時の現場で使われていた機器や仕事の内容についてもやさしく解説します。
なお、以下の説明は1980年頃の観測所の状況をもとにしています。
現在では無人となっており、当時とは運用体制が異なりますのでご了承ください。
高安山の気象レーダーの歴史と進化
日本初の気象レーダーは1954年に大阪管区気象台の屋上に設置されました。

気象レーダー1号機のパラボラアンテナ
出典:気象庁 気象業務の歴史
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/intro/gyomu/index2.html)
その後、第2号機が1968年に生駒山系の南端にある高安山に移設され、1980年には第3号機に更新されました。
その後、1999年に第4号機、2010年に第5号機(私が更新工事及び庁舎建て替えを担当)、2020年に第6号機に更新されています。
私が就職した時は第2号機が使われており、内部には真空管が使用されていましたが、翌年には第3号機に更新され、ほとんどが半導体化されました。
下の写真は、1979年に私が就職したときに使われていた、2号機の主指示装置の写真です。

(撮影1979年)
高安山気象レーダー観測所の場所とアクセス・展望の魅力
高安山気象レーダー観測所は大阪府八尾市の高安山山頂、海抜488メートルに位置しています。
天気が良い日には大阪の街並みを一望でき、大阪湾に浮かぶ船や大阪空港へ向かう飛行機、さらに淡路島や神戸まで見渡せます。
夜には美しい大阪平野の夜景を楽しむことができます。



高安山気象レーダー観測所の設備・機器構成とその役割
観測所には気象レーダー機器とパラボラアンテナがあり、観測資料を送るための設備として、スケッチ図の伝送装置が設置されています。また、山頂での生活に必要な設備も整っています。
レドームはレーダーのアンテナを守るためのカバーで、直径は7メートルあります。最大風速60メートル毎秒の強い風にも耐える頑丈な構造です。
レドームの中には直径3メートルのパラボラアンテナがあり、水平方向と垂直方向の両方にスキャンできます。

左右(水平)や上下(垂直)に動かせます。

少し専門的な説明になりますが、送信部には同軸マグネトロンが使われており、周波数5300MHzで250kWの安定した出力を実現しています。
送受信機は特殊管を除いてすべて半導体化されており、主指示装置(レーダー画像を観測する装置)ではCRT画面にエコーの映像を表示します。
主指示装置の横に、写真用指示装置が設置されており、レーダー画像を35mmシネカメラや35mmスチールカメラで自動的に撮影されます。
また、大阪管区気象台でも画像を見ることが出来るようにするため機器も設置されています。多重無線通信装置を使用して、大阪管区気象台に画像を送信していました。
その他、FAX送受信装置や無線FAX受信装置、停電時に備えた発動発電機(35kVA)や燃料の軽油地下タンクなどが設置されています。
高安山気象レーダー観測所の業務:レーダー観測から伝送まで


観測所では、責任者を含めて10人が働いていました。現業者は8人で、2人1組の4班に分かれ、交代で当番、明け番、休み、日勤を行います。
当番勤務は24時間です。仕事の内容は、レーダー気象観測、機器の保守、庁舎の管理などです。食事の準備も重要な仕事の一つです。
ある朝起きると、窓の外にサルがいるのに気づきました。サルは静かにこちらを見ていて、思わず見入ってしまいました。


気象レーダー観測の手順と方法
高安山気象レーダー観測所では、効率的かつ正確に雨雲やエコーの情報を把握するため、1次観測と2次観測の手順が定められています。
ここでは、現場で行われていた観測手順をわかりやすく解説します。
観測所では、気象レーダーによる定時観測を1日に8回行っています。
定時観測の時刻は、04時30分、06時、09時、12時、15時、18時、21時、24時です。
集中豪雨などが予想される場合には臨時観測を行い、台風や大雨の時には毎時観測(1時間ごとに観測)を実施します。
定時観測では、1次観測、2次観測、伝送図作成、TEL FAXによる伝送図の送画を行います。
1次観測の手順:現況の把握
1次観測は、2次観測の30分前に実施されます。
この段階では、雨雲の現状を正確に把握することが目的です。
観測者は、レーダー指示装置の画面上にスケッチシートを敷いてダーマット(軟性の色鉛筆)で次の項目についてスケッチ及び測定をして記入します。
・雨雲の領域
・雨雲の強度
・雨雲の高さ
観測結果はスケッチシートにまとめられ、2次観測での比較資料として使用されます。
2次観測の手順:エコーの動きと変化の分析
2次観測は、1次観測から30分後に行います。
・雨雲の領域
・雨雲の強度
・雨雲の高さ
また、1次観測との比較によって雨雲の移動方向や速度、強度の変化を調べて記入をします。
- 1次観測のデータと比較してエコーの動きを測定して記入
- 雨雲の強さやエリアの変化を記入
- 臨時観測や台風時は、さらに詳細な観測(中心位置判定等)を行う
観測の具体的な方法
観測中は、空中線を上下させて、雨雲のエコーを見逃さないようにします。
エコーの特性や高さも測定し、スケッチシートに記入します。スケッチ作業は、電灯を消した暗闇の中で行います。

実際の観測は、部屋を暗くした状態で行われます。
出典:気象庁 気象業務の歴史
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/intro/gyomu/index2.html)
観測は、雨雲の強度、雲頂高度、層状雲からの雨と積雲(積乱雲)からの雨の判定等をレーダーエコーから判断して記入していました。
(層状性エコーはST、対流性エコーはCUと記入)

2次観測では、1次観測のデータと重ね合わせて、30分間(1次観測と2次観測の間隔)のエコーの変化や移動方向、速度を調べます。
観測には様々な工程があり、観測者の熟練度やエコーの量によって観測に必要な時間が異なりますが、5分から15分程度観測に時間が必要です。
この観測データは、予報や注意報・警報の発表に用いられ、災害の防止や人々の安全確保に寄与するため、観測には十分な注意が必要です。
観測結果の伝送と活用
観測が終わると、透写台を使ってスケッチを伝送原図に写し、TEL FAXで気象官署(約20か所)に送画します。

また、毎日15時にはレーダー通報電報を作成して、庁内電話で大阪管区気象台通信課に通報していました。
この通報電文では、レーダーエコーの強さや、その範囲を示す四隅の座標(方位角と距離)、さらに移動する方向や速度などを送信していました。

気象レーダーの保守点検作業と技術的管理
観測所では、現業者全員が技術操作(周波数や送信電力の調整など)を行うための無線従事者免許を持ち、実際の操作業務に従事していました。
また、保守作業は日点検、週点検、月点検、3ヶ月点検、6ヶ月点検、1年点検が行われます。
内容は、指示装置やアンテナ駆動装置、レーダー送受信機の出力や周波数等の多岐にわたります。
特に重要な点検は、等エコー装置のレベル検定です。
この装置の調整が狂うと、雨量の表示が実際の雨量と異なり、注意報や警報の発表に支障が出るおそれがあります。
等エコー装置とは、レーダーのエコー(反射信号)を強さごとに区分して表示する機能を持つもので、雨量の判定に欠かせません。
高安山気象レーダー観測所が担っていた多様な業務とその重要な役割
高安山気象レーダー観測所では、気象レーダーによる観測業務に加え、庁舎の管理やレーダーエコーを撮影した写真フィルムの整理、調査・研究用の写真の現像や焼き付けなど多岐にわたる業務が行われていました。
また、重要なレーダーエコーは写真用指示装置によって連続撮影されていました。
観測所内には暗室があり、専用の現像・焼き付け装置も整備されていました。私も現像や焼き付けの作業を繰り返し練習し、プロ並みとまではいかないものの、かなり上達しました。
また、レーダー気象に関する調査や研究業務も重要な仕事の一つでした。
大阪管区気象台内での研究会でも発表をしたことがあります。
職員数が限られていたため、現業者は観測・保守・技術操作・写真作業など幅広い業務をこなす必要があり、まさにオールマイティーな対応が求められていました。
近年は、気象衛星からの雲画像がテレビやインターネットで広く使われていますが、地上で実際にどれだけの雨が降っているかを把握するためには、地上設置の気象レーダーが欠かせません。
現在、気象庁の気象レーダーは全国に約20カ所設置され日本全体をカバーしており、さらに航空機の安全運航を支えるために空港には空港気象ドップラーレーダーも整備され、リアルタイムでの気象監視が行われています。
まとめ
高安山気象レーダー観測所は、気象観測の最前線として重要な役割を果たしています。
現在は無人化されましたが、当時使われていた観測機器や運用体制、観測業務の様子を振り返ることで、現場の忙しさや工夫、そして地道な作業の積み重ねをあらためて思い出します。
少人数で観測や保守を行う毎日は大変でしたが、自分にとっては貴重な経験であり、気象の仕事の原点でもありました。