テレビやインターネットで発表される気温は本当に正確なの?

氷に差し込んで温度を測定している温度計

私たちの日常生活に欠かせない温度計。気象情報をはじめ、さまざまな場面で活躍していますが、果たしてその正確性はどれほどなのでしょうか?
温度計がどのように検査され、私たちに信頼できる気温を提供しているのかについて詳しく解説します。

国や地方公共団体が行う気象観測の一部は、気象業務法に基づき管理されています。特に気象庁の観測には、検定に合格した温度計の使用が義務付けられ、観測施設の運用も厳格な基準のもとで行われています。

そのため、テレビやインターネットで発表される気温や降水量のデータは、主に気象庁や地方公共機関の観測結果をもとに作成されています。これらのデータは信頼性が高く、広く利用されています。

近年では、気象会社が独自に観測した気温データも一部がアプリやウェブサイトなどで一般に公開されるようになってきました。ただし、詳細なデータや高精度な情報は依然として企業や自治体向けの有料サービスとして提供されるケースもあります。

気温を測定する温度計にはいくつかの種類がありますが、気象観測でよく使われるのは「ガラス式温度計」と「電気式温度計」です。それぞれに仕組みや特徴、用途の違いがあり、目的に応じて使い分けられています。

ガラス式温度計とは?水銀・アルコール式の仕組みと特徴

ガラス式温度計は、細いガラス管の中に水銀やアルコールなどの液体を封入した構造を持ち、温度の変化によって液体が膨張・収縮する原理を利用して温度を測定します。
水銀温度計は高い精度と安定性を持ち、研究施設や理化学実験で使われることが多い一方、毒性や環境負荷の問題から現在では使用が制限されています。
一方、アルコール温度計は比較的安全で取り扱いやすく、学校や家庭、簡易な屋外観測などで広く使用されています。

電気式温度計とは?白金抵抗温度計などの仕組みと気象観測への応用

電気式温度計は、温度によって変化する電気的性質を利用して温度を測定するタイプの温度計で、現在の気象観測で最も広く使われています。
特に「白金抵抗温度計」は、白金の電気抵抗が温度とともに正確に変化する性質を利用しており、非常に高精度な測定が可能です。
気象庁のアメダスでは、電気式温度計が通風筒の中に設置され、日射や風の影響を受けにくい状態で24時間稼働しています。リアルタイムでの温度把握が可能で、防災や農業、エネルギー管理にも活用されています。

気象庁では温度計の正確性を維持するために定期的な検定を実施しています。この検定は、気象観測に使用される温度計が適切な構造を持ち、精度が基準を満たしていることを確認するために行われます。

検定の主な手順としては、以下のようなものがあります:

  • 構造検査:温度計の材料や部品、組み合わせなどが適切であるかを確認します。
  • 器差検査:温度計の個別の精度を調べ、基準器との比較を通じて特定の温度における誤差を確認します。

0℃試験とは?氷点環境で行う基本検定

すべての温度計検定において最も基本で重要とされているのが「0℃試験」です。これは、氷点での温度を正確に測定できるかを確認する検査で、氷水を使った氷点試験槽で行われます。
以下のような手順で実施されます。

  • 氷削器で細かく削った氷を用意し、氷点試験槽に入れる
  • 温度計を氷水に静かに浸し、十分に温度が安定するまで待機
  • 基準となる準器と被検定温度計の示度を比較し、誤差を確認

この作業は室温が高くなる夏場は氷が早く溶けてしまうため、冷却管理が難しくなります。現場では、検定が終わった後の氷を「かき氷」として楽しむことがあります。

0℃試験を行う氷点試験槽
氷点試験槽
氷点試験で残った氷で作るかき氷

-25℃〜+50℃の範囲で行う多点検定

0℃以外の温度域でも、温度計の正確性を確認するための検定が実施されます。これを「多点検定」と呼び、-25℃から+50℃までの温度範囲で行います。
専用の温度槽(恒温槽)や加熱・冷却装置を使って一定の温度を再現し、基準器と被検定器を比較することで各温度点における誤差を記録します。

特に電気式温度計では、温度変化による抵抗値の変動が計測され、正確な換算ができているかも検証されます。こうした多温度帯での検定により、実際の気象観測で幅広い気温環境に対応できる精度が保証されます。

気象庁や気象測器検定センター(JMA気象測器検定センター)で検定に合格した温度計には、「検定済み」であることを証明するための検定印が押され、検定証書が正式に発行されます。この厳格な手続きにより、温度計が気象観測に使用できる正確な測定器であることが証明され、信頼性の高い気象データの提供が保証されます。

検定証書には、以下のような情報が記載されています:

  • 温度計の製造番号
  • 検定日および検定機関名
  • 検定結果と器差(基準とのズレ)
  • 使用可能な温度範囲や有効期間

このような厳密な手続きが行われることにより、気象庁や地方自治体が提供する気温情報は、防災や農業、エネルギー管理などの重要な分野で安心して利用されるのです。

気象観測に使用される温度計は、商品である前に正確さが命です。販売前の温度計は、まず管区気象台の測器課へと持ち込まれ、厳しい検定を受けなければなりません。
たとえば、ガラス製温度計の場合、1本あたり2,400円分の収入印紙を貼った申請書を添えて、50〜100本単位で提出されます。検定は60日以内に完了させる必要があり、現場はいつも時間との勝負です。

ある日、1社の業者から64本の温度計が持ち込まれました。まずは目視でざっと確認し、明らかに傷や気泡のあるものはその場で返却。これは検定料の無駄を防ぐための対応でした。

しかし、受付後の検査で思わぬ問題が判明します。目盛り上にアマルガム(金属の合金)と思われる異物が付着しており、示度の読み取りに支障がある状態だったのです。

結果として、多くの温度計が不合格に。測器課としても、依頼した業者の事情を思うと胸が痛みました。というのも、こうした測器業者の多くは中小・零細企業であり、納品遅延や再製造は経営に直接響きます。

それでも、精度を守ることは譲れません。不合格とする判断は、気象データの信頼性、そして測器の価値を守るためのやむを得ない選択だったのです。

テレビやインターネットで発表される気温の多くは、気象庁など公的機関が厳密に管理・検定した温度計を使って観測された信頼性の高いデータです。検定には厳格な基準があり、幅広い気温に対応できる精度が確認されています。

また、観測器具の精度管理に関わる現場では、限られた時間や資源の中でも「正確さ」を最優先に判断がなされています。その姿勢こそが、私たちが日々手にする気温情報を支える信頼のもとになっているのです。

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