天候の変化が航空機に与える影響は大きく、これに対応するためには詳細で正確な気象観測が不可欠です。本記事では、空港で使用されるさまざまな気象観測装置(航空気象観測装置)と、その重要な役割について解説します。ただし、飛行場の規模や運用条件によって設置される気象観測装置は異なります。
記事の最後に、大阪空港と八尾空港勤務時の想い出を掲載していますので、ご覧ください。
航空気象観測の種類
全国の飛行場では航空機の安全な離着陸を確保するために、航空気象観測を行っています。
観測は、飛行場にある航空地方気象台や航空気象観測所で行っています、また、航空統合気象観測システム(AMOS)を用いて、無人で気象観測をしている空港もあります。
航空航空気象観測所は、空港の気象観測の一部を、その空港の管理者など(地方公共団体など)に委託して行うための施設です。
その観測要素は空港によって少し異なりますが、風、視程(見通し距離)、滑走路視距離(滑走路内の視距離)、大気現象、雲、気温、露点温度、気圧、降水量、積雪又は降雪の深さなどです。
観測の種別としては以下のような観測があります。
・常時観測
空港及び空港周辺の気象現象に常に注意を払い、気象の変化を捉えるために行う観測です。
・定時観測
航空気象官署ごとに決められた観測時刻に行う観測です。毎正時に観測を行う官署と、毎30分に観測を行う官署があります。
・特別観測
航空機の運航に影響を与えるような、重要な気象現象の変化があったときに行う観測です。空港によって設備や地理的条件が違うため、特別観測を行う基準は空港ごとに細かく定められています。
・照会特別観測
航空機の離着陸に利用する資料とするため、航空会社や運航管理者から照会があったときやあらかじめ照会があったときに、照会された気象要素について行う観測です。
・事故特別観測
飛行場やその周辺で航空機の事故が発生したときに行う観測で、事故調査のための資料とする観測結果を得るために行われます。
航空気象観測のための装置
空港の規模や種類に応じて、設置される観測装置は異なります。以下に、各種観測装置について説明します。
滑走路視距離観測装置(RVR)
滑走路視距離観測装置は、簡単に言うと、滑走路からどれだけ遠くまで見えるかを測定する機械です。
原理は、投光部から発射された光が霧粒などで散乱される様子を観測し、その受光量に基づいて気象光学距離(MOR)を計算します。これにより、滑走路灯火の明るさも考慮して、滑走路視距離(RVR)を求めます。この情報は、パイロットが安全に離着陸するために非常に重要です。
シーロメーター(雲高測定器)
シーロメーターは、簡単に言うと、雲の高さを測る機械です。
レーザー光を空に向けて発射し、その光が雲に反射して戻ってくる時間を計測することで、地上から雲までの高さを正確に測定します。雲の高さの情報は、飛行機の飛行計画や安全運航に欠かせません。
雷監視システム
雷監視システムは、雷が発生する際に生じる電磁波を雷検知局で受信し、その位置や発生時刻を知るためのシステムです。この情報は空港や航空交通管制に提供され、飛行機の安全運航に役立てられています。
空港気象ドップラーレーダー
空港気象ドップラーレーダーは、雨の強さの分布や降水域内の風の分布を観測する装置です。特に、低層ウィンドシアーと呼ばれる地表付近で急激に風向きや風速が変わる現象を検出し、その情報をパイロットに提供することで、飛行機の安全な離着陸を支援します。
空港気象ドップラーライダー
空港気象ドップラーライダーは、レーザーを使用して空中のエアロゾルの動きを観測し、風の変化を捉える装置です。これにより、低層ウィンドシアーやシアーラインを検出し、飛行機の安全運航に活用されます。
低層ウィンドシアーは、地表から一定の高度までの風の方向や速度が急激に変化する現象です。飛行機の離着陸時や低高度での飛行に対して、風速や風向きの急変により不安定性をもたらします。
シアーラインは、風の方向や速度の変化が特に顕著な線状の領域です。
この線状の領域では風が急に変化しやすく、特にシアーラインが空港周辺に発生すると、飛行機の安全運航に影響を与えることがあります。
温湿度降水観測装置(気温、湿度、降水量)
気温と湿度は、航空機の揚力やエンジン推力、着氷に影響するだけでなく、積載量や滑走距離の計算にも必要です。滑走路付近の平坦な場所に設置された温度・湿度計は、地表から1.25~2.0mの高さで配置され、温度計は白金の抵抗値変化、湿度計は静電容量の変化を基に気温と湿度を観測します。
雨が強くなると視界不良やハイドロプレーニング現象が発生し、ブレーキが効きにくくなることがあります。雨量計は温度・湿度計と同じ露場に設置され、0.5㎜ごとにますが転倒し、その回数で降水量を測定し、転倒間隔から降水強度も計測します。
風向風速計
風は航空機の揚力や滑走距離、操縦に大きな影響を与え、特に横風や突風は離着陸に影響します。このため、風向風速計は滑走路の接地帯付近に設置され、風車型の風向風速計で風向きと風速を観測します。
気圧計
航空機は気圧高度計で高度を測りますが、気圧の変化に応じて校正が必要です。着陸前には、目的地空港の気圧(QNH)に設定し、航空機の気圧高度計の原点を平均海面上から3mの高さに合わせて安全に着陸します。気圧計は風や日光の影響を避けるため、観測室に設置され、電気式気圧計で観測されます。
積雪計
積雪が多いと空港や航空機の除雪が必要です。積雪は雪板の上に積もった雪を人が目で測るほか、積雪計でも観測します。積雪計は滑走路付近に設置され、レーザーで雪面までの距離を測って積雪の深さを観測します。
大阪空港と八尾空港での想い出
大阪空港は離発着が非常に多く、大阪航空測候所の職員は、観測機器の点検や調整の際に、黄色の車(気象観測車)を使って制限区域に立ち入る必要があります。この車両には、管制塔と交信できる無線機や赤色灯などが装備されています。
大阪空港には多数の誘導路があり、それぞれW1、W2、W3と名付けられています。これらの誘導路を横断する際は、無線で管制塔の「大阪グランドコントロール」に許可を得る必要があります。
この周波数は航空機も使用しており、管制塔と航空機の交信の隙を狙って横断許可を取得します。場合によっては、航空機が横断するために待機になることもあります。
観測機器の点検は、航空機好きには羨ましいほど航空機の近くで行える機会があり、非常に充実した時間でした。
また、八尾空港出張所勤務時には小型機の事故が多く、私の勤務中にも目の前で事故が発生したことがあります。
突然「ギューーン」という音がし、驚いて滑走路を見ると、小型機がひっくり返り白煙を上げていました。すぐにA観測(事故特別観測)を行うように観測者に指示し、親官署である大阪航空測候所および大阪管区気象台に報告しました。このような経験は、観測業務の重要性を改めて認識させるものでした。
まとめ
飛行機の安全な運航には、気象庁が提供する気象観測情報が大きく貢献しています。これらの情報のおかげで、飛行機は安全で効率的に空を飛ぶことができるのです。もし飛行機に乗る機会があれば、こうした技術が皆さんの安全な空の旅を支えていることを思い出してみてください。